作詞


青い眼、黒い髪 (マルグリット・デュラスの同名小説に基づくロック・オペラ) 作詞・作曲:高橋鮎生 1989年作 2005年CD化、現在廃盤


青い眼、黒い髪
(マルグリット・デュラスの同名小説に基づくロック・オペラ)
作詞・作曲:高橋鮎生
1989年作
2005年CD化、現在廃盤

ある男性の人に、ある女性が恋心を抱く。その男性はその女性を女性として愛する事はないが、別の種類の愛情が、その内に生まれてくる。

そこで2人が感じていた感情を色々な詩的なイメージで描かれていた。物語は一つのホテルの部屋でおこない、登場人物も2人しかいない。その部屋で時々言葉を交わしながら過ごしている。特に展開するストーリーはない。全ては彼らの感じている心の動きだ。しかし、その細かい動きには人間の愛情から恐怖まで含んでいる。読むとトランス状態になれるほど面白かった。そして、僕がちょうど描きたい世界がその文章に見つかった。自分が言えなかった感情の表現がそこにあった。それはデュラスの小説とは少し違う部分もあったかもしれない。自分が感じていた事が音楽となって出てきた。- Ayuo

1)涙 (海の動き、星の動き)

彼は彼女が眠りに入って行くのを見ている。
彼も、部屋も、全ての出来事も、
物語も忘れられる旅に出発する。

全て忘れられる
何も起こらない
海の動きしか
星の動きしか


彼女は声に出して言う。
名前のような音を。
つぶやくように
彼女が眠っていると思うと

2)空は砂を舐める

男性:
君の中に恐怖を与えるものがある。
君さえも知らないうちに
種をのみこみ
なかで変えてしまう

女性:
私には月の血のリズムが流れている。
君にとって、私は海から見る月。

男性+女性:
石の壁から聴こえてくる音
君は、それは海の音だと言う。
でも、それは私たちの血の音。

空は深いモヤに包まれている。
砂よりも海よりも青白く
空は砂を舐める
そしてゆっくりとのみこむ

男性:
黒い髪
  夜の風景のように
    悲しい眼

3)きみのねむるすがた
  わたしはきみをみている
  きみのほっぺた、 やわらかいくび
  きみのこえ
  あまいたくましさ
  かおをきみのなかへおして

  きみのねむるすがた
  きみのうつくしさを
  息にする きみの息とともにうごく
  わたし。。。。。よんだ?
  いいや
  それはそとの木々の音
  外でとおる車の音

きみのねむるすがた
ゆめのなかの水は青くおどる
植物的にいつまでも泳いでいる
おなじまくらはかなしくみえる
わたしときみのちがいをかたる


4)よろこびの家

女性:
昼間、ある町の男と会っていた。
君への欲望を
彼にうつし変えて、
彼と一緒にいる間、楽しいふりをした。

男性:
君があの男と一緒にいて楽しいというのは嘘だ。

女性:
彼は生命というのを知っている
彼に生命というのを感じている。

快楽は心のつくりもの
肉体は快楽によって開放される

町の男の人は、彼女の事を「よろこびの家」と呼ぶ
彼は、そこへ熱意と技巧を持って入る
彼は快楽が好き。

愛にしても、彼は情熱的
でも愛と、彼女の肉体にたいす
欲望の区別はまちがわない。

彼は部屋にいる、もう一人の男のために
彼女を殴る。

でも、本当は快楽のため。
殺したい欲望と同じように自然。
男の使う侮辱も、原始的な文化の一つ
彼は、彼女を愛しながらも、侮辱する。

5)彼女と町の男

彼女が町の男について語る時
彼女の眼は、彼を視つめる
半分眠っている状態で話す
やがて、彼女の眠るくちびる。
目をとじて
顔が内側の世界い入り。
眠りに落ちていく。

マスカラやアイシャドーは、あの男のキスでたべられ
まつ毛ははだか。
赤い麦の色のように。
胸には傷。
手は少し汚く
違う人の匂いがついている
男は存在する。

彼は閉じた目にキスをする。
男の匂いがつよく
汗、タバコ、化粧のにおいと共に。

そして、いつもの夜。暗闇。
海と風がぶつかる音。深い眠り。
一つの時間から、誰も知らない時間まで。

6)海と風がぶつかる音

海と風がぶつかる音
人が聴いたことのないこだま。

笑い声
叫び声
一つの時間から
誰もしらない時間まで

彼女は海が好きだ。

7)隣に眠る動物

彼女はよく眠ている
それを彼が見ている
時々手が触れる
でも、すぐに離れる
光に包まれ
何も見えない
はだかの動物

時々外からの妨害
動物の鳴き声
風が戸を叩く
そして、彼女は消えて行く
深い底へと
息の音しか残らず

動物が隣に眠ていると思うほど

女性:
恐ろしい

男性:
何が?

女性:
私たちの関係
事件さえも見なかった犯罪の承認のように
何が起きたか分からない
最初のカフェでの出会いだけが証拠

8)存在しない人

彼女は彼が眠っている顔を撫でる
目を、口を、顔の形
皮膚の下
骨をたしかめながら
別の顔をさがす
この愛はインドのように広い
そして彼女は泣く
生きる意味を失う事が見えたから
死のように突然
彼女は、この人がこの物語にも
存在しないことが分かる

9)殺されるように恐い

女性:
ホテルで別れた後に、殺される女のように恐い

男性:
今、君は何も感じていない。

女性:
テラスに出た時、私を殺そうと思ったでしょう。

男性:
一瞬。。。。。でも、長く持たなかった。

女性:
もし、望むならば、私の体は
ここで生きることを捨てることさえ出来る。
この部屋で、いつまでも。

男性:
いつも、そう思っていた。
毎晩。
海の恐ろしさと混じりながら。
その、とどかない美しさ。

10)異次元で踊ってから

女性:
わたしたちの心が死にとらわれなければ
きみから、望んでいたことを
町の男にたのんだ。
彼がそばでねころんで
わたしが、ねむってから
きみに言ってもらいたかった、言葉を言って
ゆっくりとわたしの上ではじめるようにと。
彼はそのとおりにした。
ゆっくりと
彼の声がきこえた。
彼の手はわたしの皮膚に火をつけた。
わたしがねているあいだ
彼があとで言うには
わたしの目がけいれんして、
おなかのそこから
血のような液体がながれて、
彼が、ゆっくりと、はいったときに
わたしは目がさめた。
そこで彼は恐怖で泣いた。
そして、彼の涙が止まるのを待ってから、
もう一度
はじめて
よろこびがおりてきた。

女性:
いつまでも死んでいくように、
わたしたちは海の液体に沈めた。
いつまでも、異次元で踊ってから
ゼロに消える

女性:
海の色は何色?

男性:
おぼえていない

女性:
ああ

男性:
なぜ気になるの?
何色であるべき?


女性:
海は空から色をいただく。それはひとつの色ではなく、
光のかげん。
もしかしたら死んでいくのかも。

男性:
きみはあたっていた
死ぬために出会った
いつ、誰を愛していたのかも
いま、誰を愛しているのかもわからない
死んでいってもわからない。

男性+女性:
今は夜明けではない
夕焼けだ。
時間の感覚さえも失なった。